そりゃそうだけど、鉄くさいのは嫌だ。
「手、洗いたい~!!」
「ん~……しょうがないなぁ」
祐君はカバンの中をガサゴソと何かを探し出した。
不思議なポッケの中を漁るロボットのように探す祐君は、やっぱり、どこか可愛く見えた。
「はい。これ」
と差し出されたのは顔を拭く男物の洗顔ペーパーだった。
『拭いて超爽快!!』と書かれている。
「祐君って、こういうの使ってるんだ」
これも、なんか意外。
「男のエチケットってやつだから」
差し出された洗顔ペーパーで手を拭くと、今度はミントの香りが手から香ってきた。
時々不意に香った祐君の香りとはまた違う。
でも、優しい香り。
隣同士でベンチに座って、ライトアップされる街頭をボンヤリと眺める。
隣を見ると祐君の顔が逆光で見えなくなっていく。
「ねぇ、陽菜ちゃん」
「うん?」
「今日は俺の話をしようか」
表情までは読み取れないけど、でも声色は凄く真剣な、真面目な声だった。
「俺の父親は凄く尊敬できる人だったんだ」
“だった”ってことは
……だったんだよね。
過去のことって意味だよね。


