「……俺、結婚しないから。子供も生まない」
「なっ!なんで?!」
慌ててアナタの瞳を見上げると、そこには目を真っ赤にして、切なそうに笑う、お兄ちゃんがいた。
そう、あの……夢の中のお兄ちゃんと同じように切ない目をしていた。
そうか。
私、バカだからさ、傷つけて本当にわかった。
私はお兄ちゃんにこんな顔を見たいわけじゃなかったの。
こんな悲しいことを言ってもらいたかったわけじゃない。
ただ……お兄ちゃんに一言でいい。
『何があっても、お前の兄ちゃんだから』って言ってもらいたかっただけなんだ。
結婚しても、お父さんになっても、私のことを忘れないでほしかったんだ。
いつまでも、変わりない関係でありたかったんだ。
そんなことに今、やっと気付いたよ。
「お兄ちゃん……結婚しなよ」
大丈夫。私の傷はいつかは癒えるものだから。
「恵さんと、おなかの赤ちゃんと……幸せになって」
ケチっぽく、たくさん貯めたお金でねっと笑って付け加えると、お兄ちゃんは、私の大好きな笑顔で
「ケチっぽくってなんだよ」
と返してくれた。


