『陽菜ちゃん、手首に包帯してあるから。夜とか気をつけてあげてほしい。
夜って、人を弱くしちゃうから』


「ちょっと包帯って?!切ったってこと?なんで……」


『それは……俺の口からいえないけど』


「はぁ?!そこまで言ったら教えなよ!!」


『教えられない。だけど、本人に問い詰めることだけはやめて。
あと、切るのをやめろとかも絶対に言わないようにして』


「なんで?また切ったらどうすんの?今度は死ぬかもしれないじゃん。そしたらどうするの?」


『……もし、陽菜ちゃんが自分の手首を切ることで、現実から逃げることができるなら、その唯一の逃げる手段を俺たちの勝手な善意で奪いたくないから。
その逃げる手段まで奪ってしまったら、陽菜ちゃん、きっと今より辛くなる。
逃げ道のないまま、だけど、どうしようもない現実の中で、もがき続けなくちゃいけなくなるから。

だったら、たとえ、それが切ることだとしても、その逃げ道をふさがずにいたい。』


「それで、もし……もしものことがあったらどうするのよ?」


『それは……多分だけど、陽菜ちゃんは死に至るような傷はつくらないと思う』