そこには、優しく笑うお兄ちゃんがいたんだ。
大好きなお兄ちゃんがいた。
「う……うん」
私は制服姿のまま中に入った。
テーブルには4つ置かれたコーヒーカップとイチゴのショートケーキ。
私がいつも座ってる席に、あの人がいた。
お兄ちゃんの隣に、当たり前のようにあの人がいた。
そこは私の席なのに……。
お父さんもお母さんもお兄ちゃんもあの人も、みんながやたらニコニコ笑ってて、不気味に見える。
私はテーブルの近くのソファーに座ると、その場についていたテレビを眺めた。
テレビの音を聞いていたけど、頭にははいってこない。聞き流れていく感じ。
多分、4人の会話に意識がいってるからだと思う。
「じゃあ、まずは、ご両親に挨拶して、式はできるだけ早くして……」
お母さんの声。
近くにいるはずなのに、なぜだか遠くに聞こえる。
式……
式…………
結婚式……
「明日にでも挨拶してくるよ」
お兄ちゃんの声。


