そんなことも忘れて私はただバカみたいに名前もわからない人と会っていた。
「ねぇ、陽菜ちゃん?
この辺りって俺詳しくないんだけど、なんか遊べるところってあるの?」
「ん〜……地下鉄で2駅いったところにならあるよ」
「そっかぁ。
じゃあそこまで行って、パァ〜っと遊んで帰ろうか♪」
「うん」
2人で地下鉄に向かおうとした時、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
「陽菜ちゃん??」
それはカラオケ行って以来聞くことのなかった声だけど忘れたことのない優しい声。
「……ゆ…うくん」
振り返るとそこには紛れもない、あの時のままの祐君が立っていて、
唯一変わったところといえば、カッターシャツの制服から学ランになっていたところと、
あの頃見た笑顔とは違い、今は心配そうな表情を浮かべているところだろうか。
この人にこんな所見られたくなかったのに。
こんなみっともない姿見られたくなかったのに。
あんな顔見たいわけじゃないのに。
時間がゆっくりと時を刻む。
ゆっくりゆっくり…
私たちの空間だけ、時の流れが遅くなったようだった。


