いのり



1105号室の前に立つと、
本当に人が住んでいるのか疑ってしまうくらい静かだった。


ピンポーン


『…』


しばらくしても声がしなかったので、
やっぱり留守なのかと思って部屋に戻ろうとすると、


「はい!」


という、彼の大きな声。

同時に勢いよく開かれたドア。


「あ!どうも」


相変わらず、まぶしすぎる笑顔。
思わず目を細めたくなる。


『あの、お弁当箱。…返しに来ました。
ありがとうございます』


あたしは無理やり彼の手に赤いお弁当箱を乗せた。


「ああ!わざわざいいのに。ありがとうな」


そう言って彼は再び笑ってみせた。


『…あの、美味しかったです』

「そやろ?今までで一番の出来やったもん。あれ」


あまりに嬉しそうに笑うので、
つられてあたしも笑顔になった。

笑い方がいまいちよくわからないあたしには、
笑顔というよりも
にやついたという方が正しい表現かもしれない。


『…じゃあ、また』