いのり



「あっ、野崎さん!」



ドクンっと

心臓が音をたてる。


『…なんですか?』


「これあげる!」


そう言って少年のような笑顔で渡されたのは、

赤いお弁当箱。


「友達が風邪ひいてさっき届けに行ったんだけど、作りすぎちゃったからさ。

体にいいから、よかったら食べて」


『…ありがとうございます』

「食べられなかったら捨てていいから!それじゃ!」


彼は再び部屋に戻った。


続いてあたしも部屋に戻り、
彼からもらったお弁当箱を開ける。

レモンのつんとした香りと、甘いはちみつの香りが押し寄せる。

中身はレモンをはちみつ漬けしたものだった。



あいつを殺す?



想像がつかなかった。

あんな人が

あんな笑い方をする人が

暗殺組織の頭の息子だなんて…


あたしは中身を別の入れ物に移し、
空になった赤いお弁当箱を洗いながら考えた。


今回の計画は、簡単じゃないんだ…。


簡単じゃない


という言葉の意味を、初めて全身で感じた瞬間だった。