いのり




―今日は

隣に引越してきた者

として、世間で言う「つまらないもの」を渡しに行くことになっている。


外の空気が吸いたくなり、
ベランダに出て外の景色を眺めながら大きく息を吐いた。

11階から眺める都会の景色は、
昼の時間帯でも絶景だった。


しっかり伸びをして、部屋に戻ろうとしたとき

右隣から視線を感じた。


ふと視線の感じる方を向くと、

知らない男が隣のベランダから身を乗り出し、
まぬけな顔でこっちを見ていた。



「新しく引越してきた人ー?」


男は風に負けないように大声でそう言った。

…今のはあたしに話かけてきたのだろうか。


『…えっと』

「君に言ってるんだけど!」


『あ、そうです!』

「俺隣に住んでる芳田っていいます!よろしくー」


そう言って男は笑顔で手を振り
部屋へと帰っていった。