将棋盤を見つめたまま、亜鳥は「ふうむ」と男の人のようにうなった。

「つまりおつるぎ様としては、殿の態度に不満がある、ということかな?」

「そんなわけじゃ……!」

私は慌ててふるふると首を横に振った。

「エ……殿は、側室の私のことを、妻だと思ってるって──
夫婦だと思ってるって、言ってくれるし……」

「殿」と言い直しながら、私はほっぺたが熱くなって将棋の盤面に目を落とした。


気をつけているつもりでも、どうしても「エン」って呼びそうになっちゃうよ……。


亜鳥にはこれまでどおりの態度で接してほしいと私が頼んで、今も昔と同じように気安い口調で会話しているけれど

それでも彼女は円士郎のことをもう決して「円士郎殿」とは呼ばない。


それは他の人もみんなそうで、以前は彼を「円士郎殿」や「円士郎様」と呼んでいた人たちも、今は「殿」と呼ぶ。


もっとも、父上や青文が円士郎を「殿」と呼ぶ時の呼び方は他の人ともまた少し違っていて、

私には、彼に己の立場を自覚させようとしているように聞こえて、ちょっと可笑しい。



……私だけが、今も円士郎のことを二人きりの時だけ「エン」と呼んでいた。