「うめえよ、留玖!」


我ながら頬が引きつるのを感じながら、俺はムリヤリに笑みを作った。


甘ェよ、留玖! と言いそうになるのは、かろうじて堪えた。



「ほんとっ?」


ぱあっと、留玖の顔が花のようにほころぶ。

か……かわいいぞ……!



「いやあ、こんなうめえモン食ったの初めてだぜ!」


実際には、こんな甘ェモン食ったのが初めてなのだが。



膳を手にしたままかたまっていた面々が、一様にこわばった表情になる。


「ふ……っざけんな! これ……──」


何事かを言いかけた隼人が、電光石火で沈黙した。

隼人すらも見切れない速さで俺が投げつけた扇子に、顔面を直撃されて。




「──なにしやがる!」

「エン、なにやってるの!?」


しばしの後に、隼人が腰を浮かせて怒りの声を上げ、留玖が驚いた声を出した。


俺は満面の笑みを隼人に向けた。


「悪ィな、隼人。お前の顔に蚊が止まってたもんでよ……!」