間愛のつめかた

「青文か」

俺は庭木から文机の上の書物へと目を移した。

城代家老は、覆面の下からククッと低い笑いを漏らし、

「女のことでもお考えでしたかな」

と、可笑しそうに言った。

「んー? まァな」

俺は自然と頬がゆるむのを感じながら、愛しい女の姿を再び脳裏に思い描いた。


江戸での毎日や武者修行の道中では
ゆっくりした時間などなかったせいか意識しなかったのだが、

城に戻ってからというもの、
俺は今のように彼女と離れている時間、ほとんど四六時中、留玖のことを考えていた。


「何つうかよ、昔は美女にうつつを抜かして国を傾ける主君なんざ、とんだ阿呆だと思ってたけどよ……

今ならその気分もわかるなァ」


きらきらした留玖の笑顔を思い浮かべて、俺はにやついた。

「留玖の頼みだったら俺、何でも聞いてやると思うしよ」

覆面の下で青文が吹き出した。

「おつるぎ様を傾城と仰るか!」

覆面家老は、廊下に控えた家来のほうをチラと気にして、

「ま、その気持ちもわかるけどねェ」

と、間合いを測って家来にはギリギリ聞こえない音量で、この男本来の声音とくだけた喋り方になった。


「しかし解せねえな。

それならなんだってまた、旅から戻ってずっと彼女に男の格好をさせてやがるんだ?」


城代家老は、家老らしからぬお馴染みのヤクザな口調でそう言って、

「皆不思議がってるぜ、もったいねえってな」

部屋の中に腰を下ろし、首を捻った。

「着飾ったらさぞかし見栄えがするだろうに」