【円】
あいつの好きな桜が、午後の日差しの中で紅く染まった美しい葉を散らしている。
二の丸の一室から見える庭の紅葉を、俺はぼんやりと眺めていた。
留玖……
同じ二の丸の奥御殿にいる彼女の名を、胸の中で呟いた。
今あいつ、何してんのかな……
一つ屋根の下にいるとは言え、
日中、俺の政務中は基本的にあいつのことは放りっぱなしになる。
剣の稽古を入れている時は、留玖も俺の相手をするため一緒にいられるのだが、
今日の午後はあいにくと、俺一人で国の執務に関わる勉学をする時間に当てていた。
武者修行の旅から戻った俺を待っていた、殿様としての表の生活は、
剣術の修行を除くと
政務に携わる時間が三割、残りの七割は読み物だの書き物だのの勉学の時間というもので、
今も
青文が読めと言って持ってきた、過去の政策を記した書物を広げて机に向かっているところだった。



