化学室のノート【短編】




薄暗い化学室の中を
黙って私は彼の元へと歩きだす。




黒い机の上にノートを手にして腰掛ける彼。




近付いてからやっと私は
背の高い彼を見上げた。




「あなたが……
このノートの?」




ほとんど確信に近い疑問を
私は彼に投げかけた。




こくり、と少しバツが悪そうに頷いてみせる彼。




「そう………」




なんて答えたら良いのか分からなくて、私も曖昧に頷き返した。




そんな私を
彼は少しだけすがるような瞳で見つめた。




「……がっかり、したろ?」



その問い掛けに私は驚く。




「どうして?」




「こんな無愛想なやつが
ノートの相手だったなんて、
最悪、だろ?」




背の高い彼は
ふい、と私から視線を外す。




覚えてたんだ。




講習の最終日に私が
私自身に呟いた、あの言葉。




「あなたのことじゃ、ない…
あのときの、あの『最悪』は、私自身に言ったの」




そして私はキッと彼を睨む。




まるで講習の日に睨んだみたいにもう一度。