SIDE 先生


『お兄さん!遊ぼーっ』


『良いよ、遊ぼうか?』


その日から少女と俺は、頻繁に公園で遊ぶ事になった。


たまに少女の友達やクラスの子等も連れてきて、俺は学童の先生の様になっていた。


『お兄さん、今日は二人だけだからブランコでお話しよう?』


『良いよ』


二人でブランコに行くと、風がヒューと強く吹く。


ちょこんと座った少女は、元気にブランコをこぎはじめる。


『そう言えば自己紹介まだだったね?名前なんて言うの?』


『芦名沙由!お兄さんは?』


『俺は菊地秋、そうか沙由ちゃんって言うのか』


『うん!』


嬉しそうに頷くと沙由ちゃんは、元気いっぱいにブランコをこいで笑った。


やんちゃな少女、無垢で純粋で明るくて元気いっぱい。


少女に元気付けて貰えた俺は、このあとすぐに若手小説家の登竜門“文学小説コンテスト”でまさかの最優秀賞を貰った。


これからと言うもの忙しくなった俺は大学の授業と小説家活動で、あの公園には行かなくなってしまった。


しかしそれから半年後、学校帰りの夕方公園の前を通った時―


少女は寒い中、薄暗くなる公園のベンチで一人寂しそうに座っていた。


『沙由ちゃん』


『‥お兄さん!』


駆け寄ってきた少女は俺の腰辺りにギュッと抱き着いた。


『お兄さん、もう来ないと思った‥寂しかった』


『ごめんね、沙由ちゃん‥』


近くには誰も人は居ない。


毎日毎日俺をこんな所で待っていたのかと思うと涙が出そうになる。


『俺、忙しくてもう此処には来れないかもしれない‥だけどいつかまた会えるからその時まで、待っててくれる?』


『待ってる、沙由お兄さん好きだから待ってるね!』


じゃあね、お兄さん!と手を振った少女を見届けて、俺は家へと歩いて行く。


いつかあの子を迎えに行くと、心に決めて。



_