SIDE 先生


「沙由」


この部屋にいない子の名前を呼ぶたびに、胸がギュッと苦しくなっていく。


「ごめん‥」


そう、全部は俺の醜い嫉妬のせいなんだ。


編集長が連れてきた素直な女の子に、俺はずっと片思いをしていた。


――――‥
―――――‥


彼女が8歳、俺が18歳の時‥俺は小さな少女に救われたのだ。


スランプに陥った俺は公園のベンチに座っていると、小さな少女が俺の前にちょこんと座って首を傾げた。


『お兄さん元気ないね?大丈夫?』


『‥ああ』


『お兄さんに元気の出る飴あげるね?はい、どうぞ』


まだ子供だった俺は自分の苛立ちを、少女がくれた棒つきの飴に当てた。


差し出している小さな手から飴を引ったくると、おもいっきり地面にたたき付けたのだ。


少女は粉々になった飴をぼんやりと見つめ、必死に涙を堪えて肩を震わせている。


泣いたら面倒だな、と少女を見つめベンチから立ち上がると俺は足早にその場から離れた。


『―お兄さんっ』


『‥‥っ』


『お兄さん、この飴嫌いなんでしょ?他の味あげるっ、どれが良いの?』


公園から出ようとしたところで再び少女に捕まった、俺は振り向いて言葉を失った。


ポタリと一筋の涙を流しながら、俺に飴を差し出す少女。


なのにこの子は必死に笑っている、いや笑おうとしている。


『お兄さん‥?』


『ごめん、ごめんな‥』


『大丈夫っ、私強いのっ!だから大丈夫だよ?お兄さん』


そう言って笑った少女が、その日から忘れられなくなった。



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