ある聖夜の物語《短》


私の質問に飲んでいたビールを噴き出しかけたタキは、手近にあったティッシュの箱からニ、三枚引き抜いて慌てて口元を押さえる。

ケラケラ笑う私を横目で睨んでくるタキが何だか可愛くて、余計に笑えてしまった。


「うるせえな。好きな女がいるんだから仕方ねえだろ」

照れたように目を逸らしながら、左手で私の髪をぐしゃぐしゃにするタキ。

ぐしゃぐしゃにされた髪に怒るより“好きな女”がいることに驚いた私。

左手が頭の上に置かれていて動かせなかったから上目遣いにタキを見ると、顔は見えなかったものの、ほんのりと赤くなっている耳が目に入った。


「タキ、好きな人いるの?」

「ああ。すっげえ好き」

間髪を容れずに呟かれた言葉と赤く染まった耳が、本気だと悟らせるには充分な材料。

「そっか。上手くいくといいね」

私は友人の幸せを願って、最高の笑顔をプレゼントした。