「…た、ただいま。」
「ただいまじゃない!!
こんな時間まで何してた?」
みるみるうちに兄の顔が赤くなっていく。
「“こんな時間”って…まだ5時前だよ?
小学生より早いと思うよ?」
「小学生は男の部屋に泊まったりしーまーせーん!」
…ですね。
「…ごめんなさい。でも、本当に泊まるつもりは無かったの。」
「はぁ…。もういいよ、帰って来たんなら。」
ポンと頭に手を置かれて、「まだお前は子供だ」って言われた気分。
「あがりな。寒いでしょ?」
兄がリビングのドアを開けた。
「うん。」
靴を脱いだとき、またあの靴が見えた。
女物の革の靴。
「…まだ"マキハラさん"いるんだ?」
「…ちゃんと話がしたいって。
父さんは晩メシ買いに行ってるよ。」
「そっか。…私も、ちゃんと話がしたい。」
ちゃんと話すって決めて、リビングに入ると
「あっ、………お帰りなさい。」
優しいタレ目が私を見ていた。

