小さい頃は、ピアノなんてお家にあったけど、弾かなかった。
お兄ちゃんのピアノの曲を聴いては、心を安らぎに満たしていた。
けどね、兄が交通事故で死んで、誰もピアノを弾いてくれる人なんていなかった。
処分するか、リサイクルするか。
いつしかこんな話までもが出ていた。
そんなの出来っこない。
大好きだったお兄ちゃんが大切にしてきた宝物。
だからアタシは、自分から弾く事にした。
弾く人がいないのならば、アタシが弾けばいい。
そう思ったから。
お兄ちゃんが、大切にしていた楽譜を見て、自力で弾きあげて来た。
「……大切なんだ」
アタシは静かに音を感じた。