「だから、お世辞もいらないって言ってるじゃないですか。」


この男の人…

正直、ムカつくかも。


「逆ギレされてもねぇ~
僕は嘘をつかないから。
芸能界でも、そんないい声してるやつ、
そうそう居ないよ?」


…嘘を言ってるようにしか聞こえないけど。

でも、この話が本当なら…


「あ、あの!
私、バンドしてるんで、
デビュー、バンドメンバーみんなで、出来ませんか?」


奏楽達に勇気をもらって、
皆で楽しくバンドして…

今更、私だけ歌手デビューなんて、出来ないよ


出来ない…


私だけ歌手デビューしたって、
すぐに、芸能界から逃げてしまう。


“皆で、私の夢を叶える”


そう、約束したもん。


「私、皆とじゃないと、デビューなんて出来ません!!」


「…ほぅ。
ん~じゃぁ、明日…は、丁度休みか。
よし、明日、その子達とここに来てよ」


明日って…
急な人だな。


「…聞いてみます。
それじゃぁ…」


それじゃぁーーーと言って、
家に帰ろうとした時、


「あ、ちょっと待って」


呼び止められた。


「何ですか?」


「ちょっと歌ってみてくんない?
さっきの曲。」


…!!

また急なことを…
人前で歌うって、無理だよ。

しかも、さっきの曲って、私の作曲だし。


「聴いたことない曲だったけど、
もしかして作曲?」


バレてる…


「ふ~ん。
良いメロディだったし、良い歌詞だったね。」


あの少しの時間で、
歌詞を耳コピしたんだ…


この男の人、やっぱり本物だ…!