「…ん…」


朝、目覚まし時計にも起こされず、
自分で起きた。


今日は土曜日。

退屈な、土曜日。


学校があったら、奏楽と会えるのになぁ。

早く月曜日になってほしい。

奏楽に逢いたい。



そんなことを考えながら、
考えてもしかたないけれど、
私は着替えて、外に出た。


歌を、歌いに行った。


前、花音ちゃんと恋話した場所へ。


すぅっ


「〜♪〜♪…」


ついた途端、さっそく私は歌った。

ここには誰もこないから、
普段出せないような大きな声でも、
出すことが出来る。


「…君さ、休日になると、
いっつもここで歌ってるよね?」


…!?


誰もいないはずの、
私くらいしかこない場所…


ここは、そんな場所なのに、
後ろからトーンの低い声が聞こえた。


「は、はい?!」


とっさに振り返ると、
後ろには、
見た目30代くらいの、
ヒゲをはやした男の人がたっていた。


「…ふーん。
良い声してるね?」


その男の人は、
そっと、怪しげに微笑んだ。


「ぁ、あの…?」


「あ、怪しいもんじゃないよ。
誘拐とか、ナンパとか…そんなんじゃない。」


「は、はぁ…。」


誰もそんなこと言ってないけど。


「実は、こういうものでね。」


そう言って男の人は、
紙を私に渡した。



紙…名刺?