このとき、何故だか僕はその痕が立派な勲章のように見えた。

辛い人生から逃げようとした痕。

けれど逃げずに、ここまで生きてきた。

……お前は立派だよ。

この世の誰よりも立派だ。

おやすみ、さくら。




どれくらい時間が経っただろう。

気が付くと、泣きはらした僕の横に伯父が立っていた。

「さくらちゃんの死因は……過度のストレスだそうだ」

「……そうですか」

「お医者様が言っていたよ。 この年でこんなにストレスを溜めた子は初めてだと」

「…………」

そのストレスは家庭のいざこざのせいだけじゃない事を、僕だけが知っている。

さくらは小学生のとき、学校でもストレスを溜めていた。

自分が恵まれない環境で育ったせいか、周りの甘やかされて育った子達が気に入らない性格になってしまった。

だから自然に孤立した。

ただ、さくらは元々は明るい子で男女問わず仲が良かった。

だからプライドがその孤立した状況を許さず、一人でいるところを誰にも見られたくなかった。

休み時間には、誰もいない旧校舎の階段で一人でいたらしい。

幽霊の類が大の苦手だったさくらが、薄暗い階段で一人で。

たまに人が通ると、階段の影に隠れていた。

さらにもう一つ……

ある女生徒と仲が悪くなった際、明らかに相手が悪い状況だったにも関わらず、担任は相手を庇ったらしい。

なぜか? 簡単だ。

それはその女生徒が担任の前で泣いたから。

さくらはこんな環境で育ったから簡単に涙が出ないんだ。

本当は泣きたいぐらい辛かっただろう。

なのに担任は涙を流した奴の味方をした。

濡れ衣を着せられ、当時六年生だったさくらは卒業までの約一ヶ月間、毎日放課後遅くまで残らされた。

毎日毎日、「どうしてあんなことしたんだ」だの何だの尋問される日々。

さくらはそれに一人で耐えていたんだ。