僕は最後まで手伝うって言ったのに翠は、

「いいから休んでて!」

って……。

でもさっきまでと違って楽しそうだったから、背を押されながらしぶしぶキッチンを出たんだ。

ボスンッ

ベッドに腰を下ろしてそのまま寝転んだ。


―――トントントン

ドアの向こうから規則正しい音が聞こえてくる。

そーいえば……

僕の中に眠っていたおぼろげな記憶が蘇ってくる。

あれはまださくらが生まれて間もない頃。

まだ家庭は温かかったっけ。

僕は母さんの料理の音で目が覚めるんだ。

寝ぼけ眼で起き上がり、母さんの後ろに立つと、

『幾斗、おはよう』

そう言って優しく頭を撫でてくれた。


――フッ……

ばかばかしい。

僕は目を閉じた。




「幾斗君! ご飯出来たよ!」

翠の声で再び目を開けた。

どうやらあのまま眠ってしまったらしい。

「あぁ、今行く」

ドアの向こうに返した。

リビングに戻ると、テーブルの上には既に料理が並べられていた。

「シチューにしてみたんだけど、嫌いだった?」

「いや、大丈夫。 お前料理出来たんだな」

「失礼ね! これくらい作れます」

「どーかな~腹壊さなきゃいいけど」

翠はぷぅっと頬を膨らませた。

ったく、いちいち可愛すぎるんだよテメーは……。

僕は笑いながら椅子に腰を下ろした。