そんなことあるわけがない。

もし本当にそう思ってるなら、あなたは世界一のお人好しよ。

「嘘じゃないさ。 むしろ騒がしくなって嬉しいよ」

乗せた手をゆっくり動かして頭を優しく撫でてくれる。

じわっと涙が溢れてきて慌てて下を向いた。

「君はここにいてもいいんだ。 追い出したりなんかしない」

幾斗君……

「ここは翠の居場所だよ」

どうやらあなたは本当に世界一のお人好しだったみたい。

「……ありがとう」

初めてだよ、こんなの。

存在を認めてもらえるなんて。

ここにいていいんだよって言ってもらえるなんて。

お母さん以外には言われたことなかった。

「本当にありがとう。 幾斗君」

「ん。 それで良し」

幾斗君はわたしの目線に合わせて背を曲げ、にこっと微笑んだ。

「っ……」

その瞬間、わたしは堪えきれなくなって涙を流した。

……幾斗君。

あなたはまるで天使みたいね。

目には見えない透明な翼を持った天使。

どうかあなただけは……わたしの前からいなくならないで。

もう大事な人を失うのは嫌だから。




幾斗side

「ヒック……ヒック……」

僕が顔を覗き込んだ途端、翠は泣き出した。

しゃくり上げながら何度も“ありがとう”を繰り返して。

「ほら、俺腹減ってんだから。早く作るぞ」

「うん。 本当にありがとう!」

「それ何回目だよ」

「あはははっ」

ま、何はともあれ元気になってよかった。

それから僕は大体の物の場所を教えて自室に戻った。