僕はそっと翠の顔を覗き込んだ。

すると翠は遠慮がちに口を開いた。

「あの……」

「ん?」

「家事は全てわたしがやります。他にもお手伝い出来ることなら何でもやります。だから……」

そこで一旦息をついて言った。

「……お世話になってもいいですか?」

顔を真っ赤にして僕を見上げた。

服の裾をぎゅっと握っている。

僕はそんな翠がとても可愛いと思った。

「これからよろしくな」

ポンポンと頭を撫でてやると、嬉しそうに目を輝かせた。

「よろしくお願いします!」

翠は笑った。

始めて見る翠の笑顔は僕の目には眩しすぎて……

さくらを失ってからほとんど笑わなくなった僕の口元を自然と緩ませた。

今まで他人に無関心に生きてきた僕の殻を破ったのは、年下の女の子。

本当に君には敵わないよ。

「さ、店長に報告に行こう」

「うん!」

僕らは並んで部屋を出た。




「……そうか。平岡は人気あったから少し残念だな」

「本当にご迷惑お掛けしました」

店長に向かって頭を下げる翠。

「いいってことよ。ま、何にしろ住むところが見つかって良かったじゃねーか」

お前も隅に置けねーなーと僕に対してにやにやしている。

「そんなんじゃないですよ、店長」

溜め息混じりに僕は言った。

「翠ちゃん、またいつでも遊びにきてね」

貴史が手を振っている。

「もうこんなとこに翠は来させねーよ!」

「俺は翠ちゃんに言ってんだ!」

ぎゃーぎゃーと騒ぐ僕らを見て翠は笑っていた。