そして、僕の胸で泣いた。

声が枯れるまで翠は泣き続けた。

そんな翠を抱きしめながら僕は思っていた。

……翠はここを辞めるべきだ、と。

しばらくして翠が落ち着いてきた頃、そのことを口にした。

「お前は今日でここ辞めろ」

「……!」

案の定目を見開いて驚いている。

「……嫌よ。まだ住むとこも無いのよ……?」

だろうな。

最近はホテルではなくこの店に寝泊りしていたから。

必要最低限の物買うのにギリギリな金しか持ってないのは分かってる。

でも……

「今日こんなことがあって分かっただろ? ここはそういうトコなんだって」

「あと少しなの! もうしばらく働いたら辞めるから!」

懇願するように僕に縋って言った。

……仕方ないな。

「なら今日から僕と住むか?」

僕がそう言うと、翠は驚いて顔を上げた。

「……え……」

「ここ辞めて僕と一緒に住まないかって訊いてるんだけど?」

これは単なる思いつきで言ってるんじゃない。

実は前々から考えていたことだった。

どうせ僕は一人暮らしだし、昼間は寝てるから。

一緒といったってほとんど翠も一人暮らしのようなものになる。

これなら別に困ることはないだろ?

「……本気で言ってる?」

「もちろん」

間髪入れずに言う僕。

翠は少し考えてから言った。

「うれしいけど、幾斗君に迷惑かけるわけには……」

「迷惑じゃないよ。 ただ、そうだな……」

そんなに気が引けるのならこうしよう。

「じゃあ家事全般は君がやるってのは? それなら僕も助かる」

どうだ、これでもまだ遠慮するか?