『後悔は、したときにはもう手遅れになっている』

昔誰かが言った言葉が頭の中でぐるぐると回る。

あれから二年後、僕は東京から三時間掛かる病院へと車を走らせていた。

あの日、離婚して二つ隣りの町に引っ越した僕と母。

けれど去年の暮れに母が他界した。

僕は大学を中退して、一人で東京に出て来た。

特にやりたい事も無かった僕は、給金のいい風俗店のスタッフとして働いている。

そんな僕のもとに、今朝一本の電話が掛かってきた。

電話の相手は母の兄の伯父だった。

以前何度か話したことがある程度だったから、何の用だろうと疑問に思った。

どうせ母絡みのことだろう……

そう考えていたのだが、伯父から聞かされた内容は耳を疑うものだった。

『さくらちゃんが……さくらちゃんが病院に―――…』

さくらとは僕の妹のこと。

妹が倒れて病院に運ばれたらしい。

伯父さんはパニックを起こしていて話しが出来ない。

相当やばい状態ってことか……

「落ち着いてください! どこの病院です!?」

『君とさくらちゃんが住んでいた家の近くの、総合病院だ……』

まじかよ……東京からだととかなり距離あるぞ……

「分かりました。 すぐに俺も向かいますから」

『頼む、幾斗くん……早く来てくれっ』

僕は車のキーを掴んで玄関を飛び出した。

アパートの階段で危うく転げ落ちそうになりながらも、どうにか車に乗り込んで発進した。

さくら……間に合ってくれよ……

そう祈りながら。




「あぁ……幾斗君か」

病院に着いてみると、病室の前の椅子に腰掛けてうなだれている伯父を見つけた。

息を切らして駆け寄ると伯父の顔がよく見える。

母の葬儀で見た伯父の顔より一気に十も老いたような顔だった。

その様子を見ておおよその察しは付いた。

「さくらは……逝ったんですね」