「二人とも、あんまあの子と関わんないほうがいいよ」

「あの子って翠ちゃん?」

貴史の問いにゆりは頷いた。

「噂になってんのよ。 あの子客に本番やらせてるって」

本番、つまり最後までイってるってことだ。

「それともう一つ、金貢がせてるってのも」

まさか。

翠に限ってそんなことするはずがない。

根拠はないが、僕はそう思った。

「どっからそんな噂沸いてんの?」

ゆりに訊ねた。

「どっからもなにも、みんな言ってるのよ。 産婦人科から出てくるのを見たとか、店への支払いの他にも金貰ってるとか」

「もしホントだったらやばいんじゃねーの?」

貴史の言うとおりだ。

この店で、最後までやるのはルール違反になる。

金のことも同様だ。

もしその噂が本当であれば翠は確実にクビ。

ただそれは、あくまで本当であればの話だ。

「有り得ないな、そんなこと」

僕はキッパリと言った。

「ねぇ幾斗、何でそんなにあの子庇うのよ?」

「……それは」

そこまで言って言葉に詰まってしまった。

何でだって? そんなもん自分にも分からない。

そんな僕に気付いた貴史が機転を利かせてくれた。

「まぁそりゃ同じ店で働く仲間だからな、普通庇うって」

そんなもんかなぁ? と言いながらもゆりは納得したようだった。

そうさ、と貴史は笑って言った。

「これでこの話しは終わり! ほら、ゆりも部屋戻って」

貴史のその言葉で僕たちは自分の持ち場に戻った。

僕は翠の噂のことはさほど気にしていなかった。

どうせ誰かのでまかせだと思っていた。

そして事件は起こった―――…