「すいちゃーん! ご指名入ったよー」

「あ、はーい」

貴史が呼んで翠が答える。

毎日毎日その繰り返し。

もうかれこれ一週間になる。

……あの次の日から店長の言った通り翠はここで働き始めた。

僕と翠はというと、あれから一度も会話をしていない。

いや、翠は何度も話しかけてきた。

何度も謝ってきた。

けれど僕がそれを無視している。

自分でも分かっている。 僕は翠から逃げているんだ。

分かってはいるが、どうしても口を利く気になれない。

だから無視。 我ながらガキくさいことをしていると思う。

これじゃあまるで子供の喧嘩だな。

「なぁ幾斗、まだ怒ってんのかよ? 翠ちゃんのこと」

貴史は店長から事情を聞いたようで、あらかたのことは知っている。

「別に初めから怒ってない」

「嘘つけコノヤロー」

貴史は僕の肩を軽く小突いて言った。

「翠ちゃんかなり落ち込んでるぞ?」

ほれ、と指をさす先には客の少し後ろを歩く翠。

その翠は顔だけ振り向かせて僕を見ていた。

今にも泣き出しそうな瞳で。

僕はふいっと目を逸らした。

それを見て貴史が大げさな溜め息を吐いた。

「まぁいいけどさ~早いとこ仲直りしてくれよ」

じゃないといつまでも店の空気が暗いだろ? とおどけて見せる。

んなこと僕だって分かってるさ。

けど……翠が男と部屋に入っていく後ろ姿を見るたびに苛々が募る。

なにをしてるのか想像すると吐き気がする。

理由は分からない。

はぁ……。

僕がカウンターに肘ついて溜め息を零したとき。

後ろからゆりという女が出てきた。

確かこの間ヤった女だ。

また誘いか? そう思ったがどうやら違うようだった。