それも今となっては後の祭りだ。

僕は壁を殴った。

「クソッ!」

苛々する。 

翠に対してじゃない。

僕に……僕自身に苛々する。

何だってこんなに翠にこだわるんだよ。

生まれてからの21年間、ずっと他人には干渉しないで生きてきたのに。

もう何がなんだか分からなくなった。

どうしてこんなに……僕はなにがしたいんだよ?

どうなって欲しいんだよ!

ごつっ……

壁に額を押し付けた。

はぁ……馬鹿みてー。




翠side

さっきの幾斗君……すごく怖かった。

でもなんであんなに怒ってたの?

わたし何かした?

……考えても考えても分からない。

「はぁー……」

幾斗君が店に戻ってもう10分は経ったかな。

わたしはその間、ずっとここを動けずにいた。

『でもやらなきゃ生きていけないじゃない! 仕方ないじゃない!!』

『っ勝手にしろよ!』

さっきの会話を何度も思い返す。

どう考えても、わたしは彼の気を悪くさせるようなことは言っていないハズ。

でもどうして?

勝手にしろと言ったあなたの顔は悲しそうで……

涙を見せずに泣いているように見えた。

その顔を思い出すと罪悪感で胸がちくりと痛む。

でも原因が分からないんじゃ、どうすることも出来ない。

「何がいけなかったの……?」

ねぇ、幾斗君……わたしはどうすれば良かったの?