「なんだお前等、知り合いか?」

僕と翠を交互に見ながら店長が訝しげに眉間にシワを寄せて言った。

「いや、知り合いってほどじゃないですけど……」

たった一回話したくらいだし。

それも今思い出すくらいだし。

……ってか! さっきたしか“お金が必要で”とか言ってたよな?

そもそもこいつは何で東京にいるんだ?

こいつと会ったのは僕の実家の近くの病院だ。

「あの、幾斗くん……どうしてここに?」

そりゃこっちが訊きたいよ。

「俺ここで働いてんの」

「凄い偶然ね。 幾斗君も東京にいたなんて」

そーですね……。

ビックリしましたよ、ホント。

でもこいつはなんでこんな店で働こうとしてんだよ。

お前はまっとうな職に就くべきなんじゃねーのかよ。

天国のお袋さんも泣くぞ。

このとき、なぜだか僕は翠が夜の世界の住人になるのを心底イヤだと思ったんだ。

「……店長、ちょっとすんません」

そう言って翠の腕を掴んで裏口から店を出た。

やや薄暗くなっている路地の壁に翠を押し付け、睨むように見つめた。

「お前さぁ、本気でここで働こうとか思ってるわけ?」

無意識に声が刺々しいものになって飛び出す。

僕のその剣幕に翠は怯えながら呟いた。

「……いけない?」

「ここがどんなことしてる店か分かって言ってんだよなぁ?」

翠の細い肩を掴む手にぐっと力が入る。

それに顔をしかめながらも強い態度で僕を見上げて言う。

「分かってる。 それでもここじゃなきゃいけないの」

「……金のために身体売るってのかよ」

「…………」

翠は黙って俯いてしまった。

「何でそんなに金が必要なんだ」

「……この間、お母さんが死んだのは話したよね?」

尚も俯いたまま、ぽつりぽつりと話し出した。