コウスケの暮らすアパートの部屋をあけ、玄関で丁寧に体を払う。

いくら日光により威力が低下したとしても、病にならないとは限らない。


隅々まで体を払い叩き、玄関に足を踏み入れた。





「姉ちゃん」


コウスケの部屋のドアを開けると、コウスケと姉はベッドに腰掛けていた。


「ユウヤ」


姉は僕の存在に気付くと、低い位置で束ねた長い髪を揺らしながら振り向いた。


「何か変わったこととか、なかった?」


姉は目を細めて微笑みながら、頷いた。

その目の下には隈が見えた。



僕は俯いたままのコウスケに歩み寄った。


「コウスケ、俺。ユウヤだけど」

「……」

「元気にしてた?」

「…天使が、」



コウスケは、精神を病んでからは毎日のように「天使」という言葉を繰り返している。



「天使が、いたんだ…。天使が…見て、見ている…俺を……」




ハネが降る前までのコウスケは、明るくて人望も厚い自慢の友人だった。

当時、さっぱりとした短い髪だったのが、今となっては鎖骨に毛先がつくほど伸びていた。

姉に聞いたところ、ハサミを見ると泣いて暴れるのだそうだ。


その長い髪を細かく震わせて“天使”に怯える姿は、とても自慢の友人のものとは思えない。