コウスケのアパートの階段をあがり、チャイムも押さずに家に上がった。
いつものように玄関でしっかり服を叩き、付着したかどうかもわからない毒を払い落とす。
「姉ちゃん」
部屋の扉を開けると、コウスケはベッドに横たわり、姉はベッドを背もたれに座ってハネに関する資料を読みふけっていた。
「コウスケ、どうしたの」
ようやく僕の声に気付き、振り向いた。
「突然暴れ出しちゃってね、私じゃ手に負えなくて」
ふと見下ろすと、姉の隣に血が付いた注射が転がっていた。
発症してから一年も経ったのに髪も目も変色されきっていないコウスケの血は、まだ赤かった。
「一応、俺の友達なんだけど」
「鎮静剤を注射しただけよ」
「姉ちゃん素人じゃん」
「注射の打ち方ぐらい心得てます」
姉はワクチンや薬の開発に伴い、ハネの研究と医療の勉強を同時に行っていた。
それでも8割近くはハネの研究に時間を費やしただろうに、医療関係の分厚い本を数冊読んだだけで実践に移せる行動力と飲み込みの速さはたまに腹が立つ。