「好き、ユウヤ」
「俺も好きだよ。だから、ナキのことをもっと知りたい」
「…」
自身の事となると黙り込むのも相変わらずだ。
やっぱり記憶喪失なんだろうか。
専門外だとは思うが、やはり一度姉に一言相談しておくべきか。
なにしろナキについてわかる事と言えば、名前と、ハネの病と、僕の事を好きということだけだ。
「俺、姉ちゃんとこに行くけど、ナキも来るか?」
「行かないで」
寂しげな声で言われた。
「家にいたい?」
「ユウヤといたい」
「じゃあ、一緒に行こうか」
「…」
また黙り込む。
ただただ“寂しい”と訴える緑の目が、僕に突き刺さる。
「じゃ、すぐ帰るから」
突き刺さる視線を振り切り、毒予防のマスクを付けて、ナキの頭にポンと手を置いて家を出た。
玄関を出るまで、ナキの視線は途切れなかった。