やばい、と思いとっさに本を拾い上げようとしたら、ナキはごく普通に自分の前に落ちた本を拾い上げ姉に渡した。


「あ、ありがと…」


姉も心なしか驚いた表情を見せ、ナキに礼だけ言うと、ふらつきながらも足早に去っていった。





今の世界に、ハネを知らないものはいない。

ナキは見るからに発症しているのに、「自分は死なない」と言い切り、ハネの病の写真を見ても怯えもしない。




考えられるのは、記憶喪失。

けど名前は覚えていた。


名前以外を忘れる都合のいい記憶喪失など、本当にあるのだろうか。



「ハネは、怖い?」



ナキの突然の問いかけに心臓が跳ねた。

なんだかさっきから、心臓に負担がかかりっぱなしだ。