「初めて、オレの名前呼んだな。」
ニカっと白い歯を見せて笑うハルキ。
それは、無邪気な子供みたいに、屈託のない眩しい笑顔だった。
「あたしの家、そこだから。
送ってくれてありがとう。」
数メートル先の赤い屋根を指差し、あたしは微笑んだ。
「どういたしまして。またな。」
ハルキは一度、後ろを振り返ると、そう言って来た道を戻って行った。
その後ろ姿が、爽司と被った。
爽司も、帰る場所は真逆なのに、いつも送ってくれてた。
その優しさを、もう感じることができないなんて...。
信じたくない、事実。
そう思ったら、一度乾いた頬がまた濡れた。
一週間前に戻りたい。
爽司の笑顔が見たい。
今、あたしの脳裏に浮かぶのは...
冷たくて、鋭い瞳...。
あたしは家に入り、階段を駆けあがった。
部屋に入るや否やベッドに顔をうずめて...。
「.....ううっ...爽司...。」
こんなに、辛いんだ。
恋って、ただ楽しいわけじゃない。
胸が張り裂けそうになるくらい、
一日中泣いてしまうくらい...。
辛いこともあるんだね?
もうダメなんだって思うと、消えたくなるくらい...。
でもそれ以上に、あたしは爽司が好きで仕方ない...
こんなに好きになってしまったの。

