唄恋。

「…はい?」

今のは彼女の声に違いない。

そして俺に向けられた物に違いない。

そう確信して聞き返してみた。


「…聴いて、ましたよね」

ああ、さっきの歌でしょう。聴きました聴きました、もうすっげースよね。

何、歌好きなんですか?もしかして歌手になりたいとか?

すげーすげー、絶対イケますよ俺が推しますから!



…なんて、誰が言える?

恥ずかしそうにひたすら俯いて、だけどたまーに様子を窺ってくる彼女にこれが言えたならなんという勇者。ツワモノ。

生憎今日初めて会話する女子にそこまで言えるほど頑丈じゃ無いんです、精神が。

「あー…一応。ご、ごめん…勝手に聴いちまって」

やっと口を割って出てきたのが情けない謝罪の言葉。
適当にへらへらと笑みを作って彼女を見ると、そんな俺の言葉はどうでも良いというように俯いていた。

いや、どうでも良いという事は無いのかもしれない。
俺が聴いていたという事に羞恥を感じ俯いているのだとしたら何という事を言ってしまったんだ俺は!

「あ、あのっ」

再度聞こえた声。幻聴じゃないよな?そのくらい微かな声だった。

「…どう、でしたか。私の歌、…変でした?」

俯いたままの問い掛けに少々ビビる。

こんな事聞かれると思ってなかったし、つーかまさか…泣いてたりは、しないよな?

「いや、すっげー良かった…と思う。俺は好き」

正直に感想を言ってみた。どう来る?今の俺なら何でも受け止められるような気がするぜ。

「……ありがとう。嬉しい、です」

噛み締めるようにそう言って顔を上げた彼女は凄く綺麗だった。