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入学式が終わった数日後の、とある日の昼休み。
いつも通り友人と弁当を食いに屋上へ向かう、その途中。
裏庭に向かう彼女の背中を見つけた。
「わり、先行ってて」
突然の事に驚く友人に軽く謝罪してから俺は彼女の後を追った。
彼女の後を着いて行くと、裏庭をもう少し進んだ小さな丘のような所に着いた。
ほぼ学校から出ている位置にあるのだが、これでも学校の私有地らしく一応整備がされている。
シロツメクサが咲いている丘の中央には大きな木が立っていて、その下に古びた木のベンチが一つ。
この風景だけ見ていればドラマか何かに出てきそうな場所だが、その中心に彼女は居た。
木の下のベンチに近寄るとそこに何か小さな包みを置いた(多分お弁当)。
彼女は俺に背を向けたまま、俺にも聞こえるような大きな深呼吸をした。
そして、
歌い始めた。
大きく、通る声。けどすごく優しくて柔らかい。
俺はまるでこの空間に閉じこめられたかのように聞き入った。
彼女の歌は、それ程に俺の心を惹きつけた。
何分経っただろう、きっと一曲終わる程度…三分くらいだろうか。
隠れる事も忘れて立ち尽くしている俺を、彼女は顔を真っ赤に染めて見ていた。
…これはヤバいんじゃないか?
確実に不審がられてるよ。どうしよう言い訳が思いつかねーっ!
「…あの」
微かに空気が震えた。
