唄恋。


***

入学式が終わった数日後の、とある日の昼休み。

いつも通り友人と弁当を食いに屋上へ向かう、その途中。

裏庭に向かう彼女の背中を見つけた。

「わり、先行ってて」

突然の事に驚く友人に軽く謝罪してから俺は彼女の後を追った。


彼女の後を着いて行くと、裏庭をもう少し進んだ小さな丘のような所に着いた。

ほぼ学校から出ている位置にあるのだが、これでも学校の私有地らしく一応整備がされている。

シロツメクサが咲いている丘の中央には大きな木が立っていて、その下に古びた木のベンチが一つ。

この風景だけ見ていればドラマか何かに出てきそうな場所だが、その中心に彼女は居た。

木の下のベンチに近寄るとそこに何か小さな包みを置いた(多分お弁当)。

彼女は俺に背を向けたまま、俺にも聞こえるような大きな深呼吸をした。

そして、


歌い始めた。


大きく、通る声。けどすごく優しくて柔らかい。

俺はまるでこの空間に閉じこめられたかのように聞き入った。

彼女の歌は、それ程に俺の心を惹きつけた。




何分経っただろう、きっと一曲終わる程度…三分くらいだろうか。

隠れる事も忘れて立ち尽くしている俺を、彼女は顔を真っ赤に染めて見ていた。

…これはヤバいんじゃないか?

確実に不審がられてるよ。どうしよう言い訳が思いつかねーっ!


「…あの」

微かに空気が震えた。