母親参上

彼にしてみれば、目的地もなく、ただ、漠然と歩き回るだけという散歩に、飽きていたのだろう。総合病院とは言え、あんまり、広いとは言えない大きさだったし、何度か散歩すりゃ、目新しいものの発見など、なくなってもいたのである。

「もう、散歩めんどくさいわ。」

「めんどうくさい言うても、歩かないと、先生に怒られるで!ほら、赤ちゃん見にいこ。」

小児科病棟と産婦人科病棟の間に、新生児室があって、新生児フェチの母は、点滴をカラカラと押しながら歩く星太を、何度も何度も誘って、ガラス越しに、二人で赤ちゃんを見ていた。