――ガチャッ
「ただいま。」
玄関を見ると、黒いパンプスがあった。
そして、夕飯の匂い。
――カスッカスッカスッカスッ
スリッパが床を擦る。
笑顔で私を迎える。
「おかえり、愛ちゃん。」
「ただいま。
今日は仕事ないんだ?」
「今日は早く仕事終わったの。
夕飯まだでしょ?
カレー作ったの。食べる?」
「うん、食べる。
着替えてくるね。」
珍しっ。
あの人が夕飯作るなんて。
こういう時だけ母親ぶって。
……嫌い。
着替えた後、リビングに戻るとテーブルには二人分のカレーとサラダが置いてある。
私はイスに座った。
「いただきます。」
スプーンでカレーを口に運ぶ。
この人のカレーはいつも水っぽい。
彼女は私の前に座った。
私が食べているのを嬉しそうに見ている。
「ねぇ、愛ちゃん。
今日、どこ行ってたの?」
「友達と映画見に行ってたの。」
「友達って、男の子?」
彼女は私の顔を覗き込む。
「違うよ。
レナだよ。」
彼女は“ふーん。”と、言って、ビールをゴクリと飲んだ。
疑ってるみたい。
