「じゃあね。」


電車のドアが閉まる前。


私はホームから、彼は電車から。


私が少し笑うと、ユウトは私の右手を掴んで、悲しそうな顔をした。


「愛……
 お前さ、く……」


発車のベルの音で彼の声は掻き消されてしまった。


“えっ?”と聞き返したけど、彼は笑って、首を振った。


どこか寂しそうだった。


彼は私に何を伝えたかったのだろう。


彼が私の手を離すと、プシューと音を立てながら、ドアが閉まった。


彼の手がガラスにピタリとくっついたまま、電車は発車してしまった。


私は小さくなるまで電車の姿を見送った。





夕日がオレンジ色に空を染める。


いつかもこんな空、見たっけ。


私の左手首にはあの日からシルバーのアクセサリーがずっと光っている。


光る度に、

もう一度逢いたい…

声が聞きたい……

と私の心が貴方を欲している。


でも、私は決めたんだ。

ユウトに大事にしてもらうと。



――現実と願望が交差する。



「愛、さん?」


私の後ろから聞き覚えのある可愛らしい声がした。





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