黒い大きな犬

体中の傷は痛まない。ただ、血の流れを確認するかのようにドクドクと波打っている。僕は呼吸を整える。そして一段ずつ、客席の階段を降りて行く。
そこにあるなにもかもが、まだ使われていない新品のように綺麗だった。僕は真新しい手摺りに手を置きながら、ゆっくり慎重にステージへと向かう。