しかし、どうやら聞き違いでもなんでもないようだ。


『もう遅いし、今帰ったら那智がとんでもないだろうから…』


とんでもない…。

そういや電話越しに怒鳴り声が…。


「はあ…それはかまいませんが…」


『じゃあお願いしますね?』


「待て! 代われ!」という兄貴の声も虚しく、ブツッと電話は切れた。


「……」


あまりの強烈さに、しばらく呆然としてしまう。

どうやったらあの兄貴とあの母親と同じ血の流れたのが……これになるわけ?

いや…でもあののほほんとした感じが、母親に似ているかもしれない。

妄想癖もあるし、変わった家族だなおい。


携帯を閉じ、悠由のスカートのポケットに戻した。


「……せんぱい…?」


「ん? 起きたか」


「あれ……先輩だぁ…」


…否。

起きてねぇ。

寝ぼけすぎだ。


ふにゃっと笑うと、両手を首に回してきて力の限りに強く抱きしめる。

…といっても、こいつは力が弱い。

全力で首を絞められてもたいしたことはなかった。