気が付いたときには、着いた場所は家ではなく先輩のマンションだった。

まだ帰ってないだろうし、いつ帰ってくるか分からないのに。

先輩の部屋の扉の隣に立ち、ぽたぽたと落ちる涙を拭うこともせずただ待った。




「…!? 悠由…!?」


数十分後、さすがに涙も止まった頃、待ち望んだ人が呼ぶ声がした。


「先輩!」


鞄も投げ出し兼ねない勢いで飛びついた。

驚きながらも受け止めてくれる先輩。


「お前…いつから?」


先輩の問いにも何も答えられない。

顔を見た途端に、止まったはずの涙が再び溢れかえり、声が出なかった。


「とりあえず中入んぞ」


促されるままに、中へ上がらせてもらった。


「うあ~~~んっせんぱいいぃ~……」


玄関に入るなり、靴も脱がずに再び抱きついた。


「よしよし…ほら、靴脱げ」


「ふぇ~……」


ひっくひっくと嗚咽をあげながら、足をもぞもぞして靴を脱ぎ、ずるずる引きずられるようにリビングへ入った。


「どうした…なんかあったのか?」


子どもをあやすように、ぽんぽん背中を撫でながら言う。

あたしは、ひたすらぶんぶん首を横に振るだけだった。