―――……
「澤村ー、ちょっといい?」
その一言が、始まりであり、同時に終わりだった。
無言で前を歩く槙野くんに素直に応じるあたし。
どこまでゆくんだろうと思いながら、きょろきょろと見慣れているはずの廊下を見渡す。
「!」
途端、槙野くんがぴたりと足を止めた。
気が付くと、この間押さえ込まれてキスをされた所だった。
「槙野…くん?」
「ここで」
「……え?」
「…ここでさ、こないだ泣いてたよね?」
ここで?
ここでといえば、先輩に見られたとき……。
いやでも、泣いたのは彼が去って先輩も去った後だ。
「……?」
あ!
…も、もしかして、先輩を突き飛ばしたあのとき…?
たしかここまできて力尽きたような…。
まさかいたっていうの!?
口にはせず、でも驚きを表情にし、槙野くんを見た。
するとゆっくり頷いてみせる彼。

