待っていたのかもしれない。

俺は、こいつが自分の下へ帰ってくるのを、待っていたのかもしれない。


「せ、先輩…」


戸惑いを口にする悠由に回した腕を、少し強くする。


「あの…先輩?」


「おせぇよ、ばーか…」


なぜか、口をついて出たのはそれだった。


謝るだとか。

問い質すだとか。

そういうことだってできただろうに、なぜかそれだった。


「……すみません」


少し間をおいて、答えた。

言いたいことはそりゃ、いくらでもあっただろうな。


「…!」


思わず息を呑んだ。

悠由の手が背中に回ってきたことに、驚いて。


てっきり…俺を嫌悪しているものと。

キスを拒んだし、怯えた目で俺を見た。

あのときに、嫌悪しているのだと思った。


なのに嫌がるどころか、だんだんとくっついてくる。

とても安心して、首筋に顔を埋めた。