遂に決行の時が来た。


真っ暗な闇が当たり一面を覆い、俺の存在を消し去ってくれる。


それでも用心しながら赤外線スコープを装着しての山くだりである。


昼の間に目を付けて置いた、丁度見張り台から死角になる、塀と岩山の間が1m程しかない部分に身を潜めるまでに1時間も掛かってしまった。


少し焦りながらも落ち着きのある足取りで塀に近ずいて行き、3又鉤の付いたロープで塀の上まで上がった。


下にそっと降りてから、カーバイトのビンと洗剤のビンをビニールテープでそれぞれ1本ずつセットにして括り付けていった。


それらを慎重に体に装着し直してから一番近くにある小さな小屋に忍び寄った。


中を覗くにも、完全に遮断された状態の窓からは、何も伺う事が出来ない。


そっとドアに耳を当てたが、物音は聞こえなかった。


襟に仕込んでおいたピアノ線を曲げた物を2本使い、巧みにロックを解除しようとしたが、建物に伸びている異様なコードが目に入った。


警報装置に気付き、手を止めた。


一旦建物から伸びているコードの行方を確認して、その先にある小さなボックスが付いた電柱らしき物を捕らえた。


其処までの距離は約10m、何も身を隠す物がない。


それでも一か撥か、足音を殺して走った。


幸い、誰にも気付かれず辿り着いた。


休む間もなくそのボックスを開き、警報装置の全てを解除していった。


これでばれたら仕方がないが、もうここまで来たら後に引けない。


速やかに先ほどの小屋に戻り、ロックを開けて中に滑り込んだ。