「りんご、これ」


食後の紅茶を飲んでいる彼女に差し出したのはマンションの鍵

「え?」

「しばらく家を空けるんだ。帰るのはいつかわからない。合鍵を預けておくから時々掃除してくれないか?」


なるべくいつもと変わらない調子で。


「いいよ」


いつもの笑顔で返事をくれた


「どこ行くの?」

「うーん。企業秘密」


言えるわけがない。もう帰ってこられないかもしれない場所に行くなんて。


会計を済ませ、店を出ようとすると、りんごが服の袖をつかんだ。

「帰ってきたら聞いてほしい話があるの」

「わかった」


拳と拳をぶつける。指切り代わりの約束の仕方。



守れなかったら、針千本ちゃんと飲むから



その足で兄さんと約束したバーへ向かう