立ち上がるついでに伸びをすると、肩甲骨から快音が聞こえた。ずっと屈んでいたせいか、膝も痺れている。

窓際には黒い紐が並んで干されてあり、とても奇妙な光景だ。
そういえば、昔、姉の部屋にも似たようなインテリアがあった気がする。とは言っても、こんな悪趣味な感じではなかったけれど。

歩いてみると、下肢全体が痺れている感じがした。リハビリ感覚で、ふらふらとその辺を散歩してみる。

ふと、ドアの近くで足を止めると、廊下でもくもくと作業をしている向井さんが目に入った。
大きな看板の上にいる姿は、筏で漂流する少女みたいで何だか笑える。


「暇?」

背中からの声に、思わず身体がびくりと動いた。油断していた。

また平野さんだ。この人は暇人を見つけるのが上手らしい。
異常な反応に、細い眉を顰める。

「そんなに驚かなくてもいいでしょ」

「暇じゃない」

「気になるなら、看板作るの手伝ってあげてよ」

一体何を、とぎょっとする。どういうつもりで言っているんだ、この女は。

「邪魔になるから、僕はいい」

「手伝いくらいできるでしょ! 曾根、器用そうだし」

ぴしゃりとそう言うと、無理矢理同然で僕は廊下へ放り出された。