看板を「せえの」で置くと、武村はその場に座り込んでしまった。

「あーっ! 疲れたぁー!」

唸り声が廊下に響く。
冷白色な廊下も、絶え間ない蝉の声のせいで、涼しさを感じさない。吹奏楽の音色はどこへやら。

膝に手をつくと、汗が滞りなく床へ落ちていった。
重い荷を手放すも、まだなお、汗が吹き出ては滝の如く流れていく。まるで今まで我慢していたのを止めたみたいに。


「あの、ごめんね」

肩が跳ねる。近くで掛けられた声に。気配を感じなかった。見上げると、更に息詰まりそうになった。

向井さんだ。
どうしていつもこう、僕の前に現れるんだ。

言葉が出て来ないのを、息が上がっているせいにする。

「本当は私が取りに行かなくちゃいけなかったのに」

行ったところで、意味がない。どうせ持てないのだから。

「ごめんね」

謝るなよ。
僕は気に病ませるために、運んだわけじゃない。

「ありがとうって言ってくれた方が嬉しい」

あ、と思った。つい、木で鼻を括ったような言い草になってしまった。
恐る恐る、顔を上げてみる。

「ありがとう」

けれども、僕の予想とは逆で。
嫌な顔一つせず、彼女は微笑んでくれた。実際は不快に感じたのかもしれないけれど。
僕はすぐに目を逸らした。

「別に、いいよ」