「明日から試験前期間に入るね」

と、数学の問題集をおかずに溜め息を吐いた。
興味のそそられるタイトルがなく、諦めて課題を始めた僕のものである。


さも面白くないと言わんばかりに、夏目さんは窓の外を眺めている。
猫みたいな目で、中庭で内周を走っているバレー部を追い掛ける。目の動きまでもが、猫みたいだった。

「あと二週間は委員会ないのかぁ」

そうか。そうだ。
試験期間中は委員会が休みになる。
昼間勤務している司書のおばさんが代わりをしてくれる。
だからあと二週間は委員会がない。
夏目さんの言葉を頭で反芻する。

二週間もここで本を読んだり、こんな風に夏目さんと話す事もなくなるのか。
そう思うと、どこか寂しい。

「今日のうちに、いっぱい本を借りておかなくちゃ」

読書愛好家である夏目さんは、純粋に本から離れる事を嘆いているけれど。

「勉強しないの?」

笑いかけたが、厭味に聞こえたかもしれない、と思い、はっとした。
けれど、そんな事など気にする様子もなく、

「それなりにする」

でもそれ以上はしない、と言い加えた。